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2018年7月

要旨
  • 世界経済と資産価格

    • 世界金融危機以降、投資家が注目してきた経済や金融に代わり、政治イベントが重要問題として注目されるように

    • こうした政治問題の中には一部の国の成長を妨げかねないものもあるものの、世界的な景気拡大の基盤を揺るがすことにはならず

      • —インフレ、クレジットやマネーサプライの伸びは抑制的で、中央銀行の過度な対応は不要

      • → 景気サイクルは長期化する公算

      • → 株式市場や不動産市場には一段の上昇余地あり

  • 米国

    • 個人消費の減速は一時的だが、トランプ減税の効果も限定的である公算

    • 底堅さを増しているインフレも、マネーサプライとクレジットの伸びの緩やかさからは、今後の上振れリスクは限定的

  • ユーロ圏・英国

    • ECBは金融緩和を長期化させる姿勢だが、実際の緩和効果は限定的

    • ブレグジットをめぐる不透明さなどから、英国の当面の成長率は米国やユーロ圏を下回る公算

  • 中国

    • レバレッジ削減政策により不動産価格やマネーサプライの伸びは大幅に鈍化

    • 米中貿易戦争の行方は予断を許さないものの、国内での習近平主席の基盤は堅固

 概況
  • 政治問題を受けて景気拡大の勢いは一時的に鈍化
    2008〜2009年の世界金融危機から現在に至る大半の期間で、投資家が注目してきたのは経済自体の問題でした。すなわち、家計および企業の過剰債務の解消、緩やかな景気回復、直近では米国の金融政策正常化への転換などが注目されてきました。英国では量的緩和(QE)が終了したものの、景気の弱さから金融政策の正常化はたびたび延期されてきました。ユーロ圏では現在も量的緩和が実施されていますが、段階的な縮小を経て2018年12月には終了される予定であり、2019年9月まで利上げが実施される可能性は低い見込みです。一方、日本は「QQE」(量的・質的緩和)とイールドカーブ・コントロールを継続しており、日本銀行はまだ出口戦略について議論していません。

    しかし2018年初めには、経済や金融に代わって政治イベントが重要問題として注目されるようになりました。発端は、米国トランプ政権による対中貿易戦争の拡大でしたが、北米自由貿易協定(NAFTA)の加盟国であるメキシコとカナダ、さらには欧州連合(EU)との間でも、米国との貿易摩擦が激化しています。EUでは、スペイン国内で分離独立問題が勃発し、イタリアでは3月の総選挙を経てポピュリスト2政党による連立政権が発足したほか、ドイツでは欧州全体での移民問題をめぐる対立によってメルケル政権が連立崩壊の危機に直面しました。その他には、遅々として進まない英国のEU離脱(ブレグジット)交渉があります。

    こうした政治問題の中には一部の国の成長を妨げかねないものもありますが、私は常に、資産価格を左右する長期的かつ究極的な要因は景気サイクルであると考えています。現在の米国の景気拡大局面が108カ月を超えて続いていることを考えれば、金融政策の正常化が完了した後も、株式市場や不動産市場には一段の上昇余地があるとみています。

  • トランプ大統領の貿易戦争
    トランプ政権は、自らが不当と考える貿易慣行の是正措置の第1弾として、2018年1月に太陽電池パネルと家庭用大型洗濯機に対する輸入関税を発動しました。これは昨年、「国内製造業者に深刻な打撃を与える実質的な原因」である海外競合会社の販売からの保護の訴えを国内製造業者から受け、米国国際貿易委員会(ITC)が米通商法201条に定めるセーフガード(緊急輸入制限)を発動して国内製造業者を保護することを目的としており、中国および韓国で製造されているモデルが主に影響を受けることになります。

    2018年3月、トランプ政権は鉄鋼(25%)とアルミニウム(10%)に対して輸入関税を発動しました。これは、海外のメーカー(特に中国企業)が鉄鋼とアルミニウムを原価割れの価格で市場に過剰供給しているという米鉄鋼業界の訴えに対処するための措置でした。当初、米政権はEU、日本、カナダ、メキシコをはじめとする同盟国を適用除外とする方針でしたが、6月にはこれらの国々も関税対象となりました。

    通商法301条に基づき、ITCは中国の知的財産権と技術移転政策の現状に関する調査を実施し、「中国は知的財産権を日常的に侵害し、規制をはじめとする強制的措置によって米国企業に年間最大500億米ドル規模の技術移転を強要している」との判断を下しました。また、これに対する報復措置として、500億米ドル相当の中国からの輸出製品に制裁関税を発動することが提案されました。課税対象品目は、エンジン、農業・繊維産業用機械、半導体、電池、タイヤ、医療製品、航空宇宙産業で使用される計器などほとんどが産業用製品であるため、米国消費者への直接の影響はないと思われます。

    これに対抗して、中国は500億米ドル規模の米国製品に対して25%の追加報復関税を課すと発表しました。中国が公表した対象品目リストは大豆、航空機、自動車、牛肉、化学製品など106品目です。7月6日には、米国が中国の輸出製品に対して340億米ドル規模の関税が発動し、8月にはさらに160億米ドル相当の追加関税が発動する予定です(8月23日実施)。これまでのところ、中国は冷静に対応しており、改革と市場開放に取り組み、知的財産権の保護向上に努めるとの発言を繰り返しています。重要な点として、中国政府は、中国国内で事業を展開する海外企業にとって望ましい事業環境の整備を約束しました。

    米国当局は、対米外国投資の規制強化も検討しています。3月にトランプ大統領は、「米国にとって重要と判断される産業または技術」への中国の投資を制限する制度を考案するよう、スティーブン・ムニューシン財務長官に指示しました。こうした提案は、中国政府が人工知能、ロボティクス、量子コンピューティングといった未来産業で圧倒的な地位を確立するための手段と位置づける「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」計画に真っ向から対抗するものです。5月に米国政府は、米国企業の特定技術の中国への流出阻止およびそれに関する輸出規制の強化について、6月30日までに詳細を公表すると述べました。詳細はまだ明らかにされていません。

  • インフレ率は目標値を超えて上昇も、景気拡大への脅威にはあらず
    米国のインフレ率は、8年近く2%の目標を下回る水準で推移していましたが、2018年5月にようやく、変動の大きい食品とエネルギー価格を除外したコア個人消費支出(PCE)価格指数が2.0%の水準を回復しました。ただし、その主な要因はエネルギー価格の上昇(指数のうち、エネルギー以外の項目でも確認される)とそれ以前に見られた米ドルの下落であり、基調的なインフレ率が上向いたわけではありません。インフレ率は目標値を超えたものの、足元の水準を超えて急上昇する可能性は低く、マネーサプライとクレジットの伸びが引き続き低調であることもインフレ圧力の抑制要因であるようです。このことは、金利が「中立」の水準に達すると、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの継続が不要になることを意味しています。景気サイクルの観点から見た場合、中央銀行がクレジットとマネーサプライの過剰な伸びを抑制する必要がないことは好材料です。つまり、景気拡大は2019年以降も数年続く可能性があります。

    ユーロ圏諸国や日本など他の主要経済国では、インフレ率が依然として2.0%の目標値を下回っているため、市場を混乱させるような突然の利上げが実施される可能性は低いでしょう。カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スウェーデンについても同様です。先進国全般がこうした状況にあるということは、世界的な景気拡大局面が従来のようにインフレ率の上昇によって妨げられることなく、最低でも2年間(おそらく3年から4年)は続くことを意味します。要するに、低インフレには景気拡大をさらに長期化させるという利点があります。

  • 世界貿易は拡大
    適度な実質GDP成長率、低インフレ、景気拡大の長期化といった経済動向を背景に、世界貿易は緩やかな拡大基調にあり、先進国と新興国のいずれにも恩恵をもたらしています(図表1)。2010〜11年の貿易拡大は、中国の大規模な景気刺激策に支えられて新興国経済が急激に拡大したことが主因であったため、2011〜12年のユーロ圏債務危機と2013年の「テーパー・タントラム(市場のかんしゃく)」の後に突然縮小しました。一方、現在の世界貿易の拡大は、より緩やかなペースで進行していると思われます。これは、輸出の増加が広範な国にわたっているためですが、その足取りは脆弱です。米国と欧州の景気回復は、中国の貿易の緩やかな増加と他の東南アジア諸国の輸出拡大を下支えしていますが、トランプ大統領の貿易戦争が複数回にわたってエスカレートした場合、貿易拡大のペースを鈍化させることになりかねません。

  • 足元の株式市場は調整
    世界の株式市場は、米国の減税を追い風に2017年12月〜2018年1月に力強く上昇したものの、2月以降は下落が続きました。現在、株価が最高値圏にある市場はほとんどなく、昨年末の水準まで下落した市場が大半です。一方、「リスクオフ」局面に入った2月以降、債券市場では利回りが上昇(債券価格は下落)する弱気トレンドに歯止めがかかり、利回りは不安定ながらもおおむね横ばいで推移しています。今後は、FRBが政策金利の引き上げを継続していることから、中長期債券利回りの上昇は続くと想定されます。金利上昇は株式と不動産にとってもマイナス材料ですが、強気相場の終了を意味するわけではありません。

    資本価値は将来の利益の割引現在価値に評価倍率(マルチプル)を乗じた値と考えることができます。例えば、株式の場合、資本価値は将来の企業利益の割引現在価値に株価収益率(PER)を乗じた値と考えることが可能です。同様に、不動産の場合、資本価値は将来の賃貸収入の割引現在価値に還元利回り(「キャップ・レート」)を乗じた値と考えることができます。マルチプルは主に金利の影響を受けるため、金利上昇によってPERは低下する可能性があります。しかし、企業利益を押し上げる主な要因はGDP成長率であるため、私の景気拡大予想がおおむね正しければ、景気拡大の長期化に伴う企業利益の持続的な拡大により、現在投資家が経験しているPERの緩やかな低下は相殺されることになります。

 米国

個人消費の減速は一時的だが、トランプ減税の効果も限定的である公算

米国の実質GDP成長率は、個人消費支出(PCE)の大幅な減速(2017年10-12月期:前期比年率+4.0%⇒2018年1-3月期:同+0.9%)を背景に、2017年10-12月期の前期比年率+2.9%から2018年1-3月期には同+2.0%まで減速しました。しかし、その後発表されたさまざまな経済指標が力強さを示していることから判断すると、2018年1-3月期の減速はほぼ間違いなく一時的であると考えられます。例えば、5月の小売売上高は前月比+0.8%、前年同月比+5.9%となりました。耐久消費財受注も4月は前年同月比+11.6%、5月は同+10.3%と、いずれも過去最高の水準です。他の経済指標も好調で、アトランタ連邦準備銀行の「ナウキャスト(足元予測)」による経済予測モデルは、2018年4-6月期の実質GDP成長率が+4.1%という力強い伸びになると示唆しています(7月2日現在)。多くのアナリストは、2017年末に成立したトランプ減税が来年にかけて米国のGDP成長率に力強く寄与すると予想していますが、私の見るところ、財政刺激策の効果はマネーサプライとクレジットの低調な伸びによって大きく相殺されています。つまり、ある程度の「クラウディング・アウト」(市中金利の上昇)が発生する可能性はあるものの、成長率とインフレ率への影響は限定的と考えられます。

インフレは引き続き抑制的だが、底堅さを増している

インフレについては、いくつかの重要な指標が2%の目標圏に達しています。総合消費者物価指数(CPI)は5月に前年同月比+2.8%に達し、コアCPIは+2.2%に上昇しました。これは2017年半ば以降にエネルギー価格が上昇したことや、2017年初めの一時的な物価押し下げ効果(モバイルデータ通信料金の引き下げなど)が剥落したことによるものです。一方、5月のPCEデフレーターは前年同月比+2.3%に上昇し、FRBが重視している、価格変動の大きい食品とエネルギーを除くコアPCE価格指数は+2.0%と、2012年4月以降で最大の伸びとなりました。物価指数の項目別では、住宅市場の力強い伸びを背景に帰属家賃が上昇(2018年2月時点:前年同月比+3.1%⇒2018年5月:同+3.4%)し、また、2018年初め以降の賃金上昇(2.6〜2.8%)が事業経費に反映され始めています。トランプ大統領の関税措置を受けて2018年下期には輸入価格の上昇が予想されることからも、物価上昇基調は世界金融危機以降の9年間と比べてわずかですが底堅さを増しています。

FRBの利上げ継続は不可避

現在、パウエル議長が率いるFRBは、経済の好調さを示す統計データを受けて政策金利の誘導目標を着実に引き上げ、バランスシートの縮小を計画通りに実行しています。米連邦公開市場委員会(FOMC)は2017年に政策金利の誘導目標を0.25%ずつ3回にわたって引き上げましたが、FRBの景気見通しがおおむね正しいと仮定すれば、2018年に4回、2019年に3回の利上げが行われることになります。その場合、政策金利誘導目標の上限は、現在の2.0%から2018年12月には2.5%に、2019年12月には3.25%にまで引き上げられることになります。FRBがフィリップス曲線や需給ギャップ分析などによってインフレを評価していることや、財政刺激策による物価押し上げ効果を見込んでいることを考慮すると、利上げの継続はほぼ不可避の情勢です。

しかし、マネーサプライとクレジットの伸びの緩やかさから考えれば、インフレの上振れリスクは限定的

経済を貨幣的な側面から捉えた場合、広義のマネーサプライ(M2またはM3)は前年比で4%を上回る水準でしか増加しておらず、銀行の貸出残高がわずか5%の増加にとどまったこと(図表3)がマネーサプライの伸びを抑制した主な要因であるという点を認識しておく必要があります。インフレとは結局のところ、貨幣的な現象であるため、マネーサプライとクレジットが緩やかに増加するのであれば、インフレの上振れリスクが抑制され、したがって市場金利と債券利回りの上昇は限定的となります。

私は、2018年の実質GDP成長率を+2.5%、消費者物価指数上昇率を平均で+2.6%と予想しています。

 ユーロ圏

2018年に入ってから、ユーロ圏の景気は減速

ユーロ圏では、政治情勢の悪化を背景にユーロが再び不安定化するとの懸念が浮上し、2018年上期に経済が大幅に減速しました。

実質GDP成長率は、2017年10-12月期の前期比+0.7%(前年同期比+2.8%)から2018年1-3月期には同+0.4%(同+2.5%)へと減速しました。生産活動も大幅に鈍化し、5月のユーロ圏製造業購買担当者景気指数は55.5と15カ月ぶりの低水準となりました。また、ドイツの主要な景況感指数であるIFO景況感指数も2017年11月の105.3から2018年6月には101.9へ、期待指数は103.6から98.6に低下しました。ZEWが発表するドイツの期待指数は2月の20.4から6月は▲16.1に低下し、ユーロ圏全体の期待指数は2月の29.3から6月は▲12.6に低下しました。今後は、米国との貿易摩擦、クレジットの伸びの低迷、銀行システムの慢性的な問題が引き続き景気拡大の足かせとなり、今夏の経済活動がさらに鈍化すると考えられます。

政治面の不安要因も増幅

4-6月期は欧州の金融市場も政治動向の影響を受けました。イタリアでは、左派の五つ星運動と右派の北部同盟が最終的にポピュリスト連立政権を発足させましたが、そこに至るまでの不透明感と複雑な経過を経たことから、6月初めに10年物イタリア国債利回りはドイツ国債利回りを250ベーシスポイント(bps)上回る3.0%超まで急上昇しました。カタルーニャ州独立派の不満が解消されていないスペインでも、10年物国債利回りが1.5%まで上昇しました(ドイツ国債を115bps上回る水準)。また、欧州諸国は移民をいかにコントロールするかとの課題に取り組んでいますが、移民の数はすでに急激に減少しています。とはいえ、ドイツのメルケル政権の連立危機や、一部の中欧諸国(ハンガリー、ポーランド、スロバキア)とイタリアが移民管理の強化や欧州諸国間のより公平な責任分担を要求するなど、政治への影響は続いています。

インフレは上昇したものの、上昇圧力は限定的

インフレについては、5月の総合消費者物価指数は前年同月比+1.9%と、4月の同+1.3%から大幅に上昇しました。これは原油価格の上昇(その結果、CPIのエネルギー項目は+2.6%から+6.1%に上昇)とコア・インフレ率の上昇(+0.8%から+1.1%に上昇)によるものです。ユーロ圏の労働市場は、一部の分野で熟練労働者の不足が報告されている通り、徐々にひっ迫しつつありますが、企業が深刻なコスト上昇圧力にさらされる段階にはほど遠い状況です。したがって、原油などのエネルギー価格が下落した場合、インフレ率は再び低下に転じる可能性があります。さらに、ユーロ圏の足元の経済活動が低迷していることから、需要面からの物価上昇圧力も弱まり、インフレ率を低下させる恐れがあります。重要な点として、欧州中央銀行(ECB)の金融政策は欧州域内にインフレ圧力を生み出すほど緩和的ではありません。

ECBは金融緩和を長期化させる姿勢だが、実際の緩和効果は限定的

このように、緩やかな経済成長を背景に、ECBは6月半ばに、月間の資産買い入れ額を現在の300億ユーロから2018年10-12月期には150億ユーロまで減額し、年末には資産購入プログラムを終了(量的緩和(QE)の終了)する計画であると発表しました。ただし、満期を迎えた債券の償還資金を「資産購入プログラム終了後も長期間にわたり」再投資することにより、ECBの資産購入水準は維持されます。さらに、マリオ・ドラギECB総裁は、「少なくとも2019年夏まで」は、ECBの主要政策金利を現在の水準に据え置くとのフォワード・ガイダンスを公表しました。ただし、これらの決定事項は、ECBの中期的なインフレ目標である「2%を下回るが、2%近辺」にインフレ率が持続的に維持されることを前提としています。

以前に指摘したことのあるECBの課題は今も解消されていません。ユーロ圏の銀行システム全体で不良債権比率が高いことと、自己資本が十分でないことから、ユーロ圏のクレジットの伸びは依然として低迷しています。これは、ECBが12月に資産購入を終了した場合、ユーロ圏全域で預金、したがってM3の伸びが再び鈍化することを意味しています。そうなれば、経済成長にマイナスの影響が及び、インフレ率が再び1%以下に低下することは避けられないでしょう。

私は、2018年のユーロ圏全体の実質GDP成長率を+2.1%と予想しています。総合消費者物価指数(CPI)は、主にM3の伸びが不十分であることから、目標値2%を下回る1.3%と予想しています。

 英国

ブレグジットをめぐる不透明さが引き続き英国経済の足かせに

多くの欧州および北米諸国の経済と同様、英国経済も2018年1-3月期に異例の寒波による悪影響を大きく受けました。このことは、2017年半ば(すなわち、2016年6月に行われた英国のEU離脱(ブレグジット)の是非を問う国民投票から1年後)から続いていた経済成長率の低下に追い打ちをかけました。2018年1-3月期の実質GDP成長率は前期比+0.2%でしたが、通年では+1.4%になると予想しています。国民投票以降、英国経済は、消費主導型から純輸出および輸出関連投資依存型へと転換していましたが、ここ数四半期は、企業がブレグジット後の貿易協定をめぐる不透明感から投資を延期するなど、この流れが後退しています。

ただし、実質賃金の押し下げにつながったインフレは落ち着いてきており、労働市場は堅調が持続

2017年2月以降、インフレ率が目標を上回る期間が続いたことで実質賃金の伸び率はマイナスとなっており、個人消費支出に影を落としています。実際、ブレグジット国民投票以降の英ポンドの下落と、広義のマネーサプライ(M4x)の一時的な急増を背景に、CPI上昇率は2017年11月に国民投票後の最高水準となる+3.1%を記録しました。英ポンドは2016年末から2017年初めに国民投票前の水準から最大18%下落したものの、現在は1英ポンド=1.32米ドル前後まで上昇し、国民投票前の水準を9%下回る程度にまで回復しています。国民投票後の当初の英ポンド下落に起因する輸入物価の上昇は、すでに消費者物価におおむね転嫁されています。さらに、M4xの伸び率が5月には+4.2%に減速(2016年10月は+7.6%の高水準)したことを考慮すると、CPI上昇率が2018年6月に2.4%に低下したことは当然の結果であり、年内にさらに低下する可能性があります。一方、労働市場は堅調さを維持しており、5月の失業率は過去最低水準の4.2%となりました。

英国の当面の成長率は米国やユーロ圏を下回る公算

ブレグジットは今も英国の政治と経済情勢に大きな影響を与えています。政界では、自由市場を指向し、消費者寄りで、完全な離脱を主張するEU離脱推進派と、「名ばかりのブレグジット(BRINO)」とも呼ばれる企業重視のアプローチを推進し、EUとの緊密な連携維持を目指すEU擁護派との主導権争いが続いています。実質賃金の低迷、ブレグジット交渉をめぐる不透明感を背景とした企業の投資計画の延期、さらにはマネーサプライとクレジットの伸びの鈍化が重なり、英国の経済成長率は短期的には米国とユーロ圏の成長率を引き続き下回る公算が大きいと考えられます。

私は、2018年通年の英国の実質GDP成長率を+1.4%、消費者物価指数上昇率を+2.4%と予想しています。

 日本

2018年初の日本経済は予想外のマイナス成長

2018年1-3月期の実質GDP成長率は前期比▲0.2%(前期比年率▲0.6%)と、やや予想外の結果となりました。成長率低下の主な要因は、低調な個人消費(前期比年率▲0.3%)と住宅投資の減少(同▲7.2%、2017年10-12月期は同▲10.3%)が重なったことです。一方、民間非住宅投資は2018年1-3月期に+1.3%となりました。前年比の経済成長率は、人口の高齢化などによる労働力不足と慢性的な国内需要の低迷を反映し、+1.1%(2017年通年は+1.7%)とさえない結果となりました。輸出は年率換算で+2.6%、輸入は同+1.2%となり、純輸出は実質GDP成長率にプラスに寄与しました。

日本の労働市場はひっ迫が続いているものの、個人消費は低迷

2018年4-6月期の統計データも引き続き低調な結果となりました。全世帯の家計支出は、水道光熱費と自動車への支出が減少したことから、4月は前年同月比▲1.3%、5月は同▲3.9%となった一方、サービス業購買担当者景気指数(PMI)は5月に51.0、6月に51.4となりました。内閣府は、景気減速は主に寒冷な気候によるものとしており、2018年後半については楽観的な見通しを示しています。確かに、2018年5月の失業率が先進国の中で最も低い水準の2.3%、有効求人倍率が1973年の好況以来の高水準となる1.6倍など、労働市場はひっ迫した状態が続いています。しかし、慢性的な国内需要の低迷は日本銀行の現在の金融戦略では解消されていません。

マネーサプライの伸びの力不足から物価上昇率も低迷

以前に述べたように、日本の広義のマネーサプライ(M2)の伸びは持続的な物価上昇を起こさせるだけの勢いがありません。5月のM2の伸び率は前年同月比+3.1%で、+1.0〜1.5%の実質GDP成長率と貨幣流通速度の平均2%の低下(すなわち、貨幣保有量の年率2%の増加)によってほとんど吸収されています。すなわち、インフレ率は平均で日銀目標の2%を今後も大幅に下回り、低水準の名目GDP成長率、平均を下回る賃金の伸び、期待外れの個人消費支出が続くと考えられます。

全体的に見た場合、インフレ率は現在も1%を下回っています。5月の全国CPIは前年同月比+0.7%、コアコアCPI(食品とエネルギーを除く)は同+0.3%にとどまりました。要するに、この5年間にわたる日銀の量的緩和(QE)あるいは量的・質的緩和(QQE)は、ノンバンクではなく主に銀行から資産を購入する方法であったことから、物価を十分に押し上げることができませんでした。

私は、2018年通年の日本の実質GDP成長率を+0.9%、総合CPI上昇率を平均+1.5%と予想しています。

 中国およびアジア新興国

政府のレバレッジ削減政策の推進により、中国のマネーサプライの伸びは1978年以来の低水準に

中国経済の状況を的確に理解するのに重要なポイントは、1年半前に決定された企業部門の債務の削減です。この決定により、地方政府、企業およびノンバンク金融セクターでは数年来蓄積されてきた過剰債務を解消し、クレジットの伸びを抑制することが必要になりました。住宅セクターのクレジットを制限するマクロ・プルーデンス政策が効果を発揮し始めたことで、2017年半ばまでには、シャドー・バンキングなど正規の銀行システム以外によるクレジットの拡大は抑制されるようになりました。中国の資本市場は発展の比較的初期の段階にあり、銀行貸付が借り入れの主な手段であるため、クレジット拡大の減速に伴ってマネーサプライの伸びも鈍化しました。M2の伸びは2016年1月の+14.0%から2018年6月には+8.8%に減速しました。これは1978年に搶ャ平氏が「四つの近代化」計画を開始して以来、最も低い伸び率です。

国内需要は減少したものの、一部設備投資や消費支出は底堅さを維持

その結果、この1年間に固定資産投資、インフラおよび建設支出、住宅建設の伸びが低下するなど、国内需要は徐々に減少しました。しかし、高付加価値セクターとサービス・セクターの設備投資は好調を維持しており、消費者の小売支出も底堅く推移していることから、2018年上期の中国の国内需要はわずかな減少にとどまった可能性があります。中国人民銀行(中央銀行)は2018年4月25日に預金準備率を1.0%引き下げましたが、これは、先に創設された中期貸出ファシリティ(MLF)から銀行が借り入れた資金の返済負担を軽減するものであり、大量の資金が新たに供給されたわけではありません。

不動産価格は一段と沈静化

中国の住宅市場はこの数カ月間に一段と冷え込みました。1級都市の不動産価格は年初来おおむね横ばいで推移し、2級都市と3級都市の住宅価格上昇率は引き続き鈍化しました。市場に影響を与えるマクロ・プルーデンス政策のうち、頭金比率の引き上げと住宅の購入および売却制限がどちらも効果を発揮しました。さらに、2018年政府活動報告から、当局が土地の供給を増やし、共同所有不動産と賃貸住宅を奨励する計画であることも明らかとなりました。いずれの措置も、マネーサプライとクレジットの伸びの抑制と併せて不動産価格の抑制に寄与すると見込まれます。

米中の関税競争の行方については予断を許さず

輸出については、2つの相反する状況が生じています。中国の輸出は2014〜16年にやや低迷した後、緩やかに回復しています。 一方、本稿執筆時点では、中国の最先端産業分野の多くを標的としたトランプ政権の輸入関税によるマイナスの影響が確認され始めています。トランプ大統領の貿易戦争がどう展開するか断言するのは時期尚早なものの、2つのシナリオが考えられます。7月6日に340億米ドル相当の中国の対米輸出品を対象とする追加関税の第1弾(および8月に予定する160億米ドルの追加関税)が発動されたことを受けて、中国は報復措置に踏み切りましたが、米国はさらに2,000億米ドル規模の中国の対米輸出品に関税を課す準備を進めています。しかし、これは中国を交渉の場につかせるためのおどしに過ぎないとも考えられます。この1つ目のシナリオは、米国と中国が交渉を再開し、11月に行われる米国の中間選挙までの4カ月の間に中国が譲歩案を提示するというものです。しかし、中国が同等規模の報復措置を講じて米国の関税に真っ向から対決した場合、トランプ政権は2,000億米ドル規模の中国製品を関税対象品目リストに追加する可能性があります。この2つ目のシナリオでは、貿易戦争が長期にわたり続き、世界貿易と米中関係に深刻な打撃を与える可能性があります。

貿易戦争という対外的な問題に直面する一方、国内では習近平主席が絶対的な統治権限を維持

1976年以降の近代化政策の時期に国内情勢が不安定化した状況とは異なり、中国が現在直面している問題は、主にトランプ大統領の貿易戦争という海外要因によるものです。クレジットの低迷により、社債市場では2件の深刻な債務不履行が生じ、人民元の対米ドル・レートは年初来で6%下落(すなわち緩やかな資金流出)しました。一方、国内に目を向けると、習近平国家主席は絶対的な統治権限を握り、また、5月の消費者物価指数上昇率が前年同月比+1.8%にとどまりインフレが抑制されているなど、国内情勢はおおむね落ち着いています。

私は、2018年の中国の実質GDP成長率(政府発表)を6.7%、消費者物価指数の上昇率は、マネーサプライの伸びの減速と人民元の下落を受け、平均+1.6%になると予想しています。

東アジア諸国の先行きは米中貿易関係の行方次第

中国を含む現地サプライ・チェーンとの繋がりが強い東アジアの比較的小規模な工業国は、米国と欧州の景気拡大が継続するか否か、トランプ大統領の対中貿易政策による影響がどの程度波及するかによって、輸出の見通しが大きく左右されます。東アジア諸国は申し分のない経済成長が続いており、景気過熱や物価上昇の兆候を示している国はありません。韓国、台湾および香港の2018年の実質GDP成長率は3%近い水準となり、アセアン諸国の成長率は5.1%に達すると予想されます。この成長率はおおむね過去の水準を下回っていますが、比較的小規模な輸出主導型のアジア工業国は、米ドル高と米国金利の上昇の二重の圧力によって深刻な打撃を受けている他の新興国に比べると、株式市場も通貨も底堅く推移しています。

 コモディティ

2018年上期は購買担当者景気指数(PMI)などの経済指標が悪化しましたが、その一方でコモディティ価格指数は、CRB指数が2018年初来1.6%上昇するなど、広範にわたりおおむね安定的に推移しました。そのような中、市況が最も大きく変動したコモディティは原油と銅でした。

年初から上昇した原油価格は米国の生産増加で頭打ちに

ブレント原油価格とWTI価格は年初来で12%上昇し、本レポート執筆時点でWTI原油は1バレル69米ドルで取引されています。2018年上期は供給面の深刻な混乱が何件か見られました。1つ目は、政治・経済危機が続くベネズエラの原油生産量が直近12カ月で日量70万バレルの減産となりました。これは石油輸出国機構(OPEC)の原油生産量が計画以上の減産となったことを意味します。2つ目は、米国がイラン核合意から離脱した後、OPEC加盟国中第3位の生産量を誇るイランに対する制裁を再開したことによる影響です。ただし、これがイランの原油輸出にどの程度影響するかは明確ではありません。最後に、リビアで武力衝突が激化し、足元で生産量が日量40万バレル減少していることが挙げられます。

業界専門家は、これら3カ国の原油生産量は2018年末までに合計で日量150万〜230万バレルまで減少する恐れがあると警告しています。2018年5月時点で、OPECの減産量は当初の予定を日量60万バレル上回っています。こうした予想以上の供給量減少への対応策として、OPEC加盟国は6月22日、原油供給量を2016年11月に設定した目標水準まで回復させるために増産を行うことで合意しました。

一方で、この1年間で米国のシェール・オイルの生産量は増加しています。2018年6月の米国の原油生産量は前年同月比で16%増加しました。米国の稼働リグ数は増加傾向にありますが、そのペースは緩やかで、現在の稼働リグ数は2014年の原油価格暴落前の半分強に過ぎません。テキサス州パーミアン盆地は最大のシェール・オイル生産量を誇る油田ですが、パイプラインの制約が障害となり、市場への原油輸送に影響が生じ始めています。そのため、2019年に新たなパイプラインが開通するまで、供給の伸びの減速が見込まれます。全体としては、年内の原油価格は1バレル70米ドル近辺のかなり限られたレンジ内での小幅な動きにとどまるとみられます。

銅価格は、供給減少を上回る需要鈍化(米中貿易摩擦の行方次第)で今後も弱含む可能性

銅市場は、供給と需要の両サイドで問題が生じています。銅価格は、2018年6月初めに1キロ当たり7,348米ドルと4年ぶりの高値まで上昇しました(2017年6月から約30%の上昇)。価格を押し上げた要因は、@2018年3月までの米ドルの下落、Aインドの大規模な銅製錬所の閉鎖、B世界最大規模の銅鉱山であるチリのエスコンディーダ鉱山での労使交渉決裂による混乱―で、先行きが懸念されています。しかしこの数週間、銅価格は6月の高値から6,303米ドルまで下落(約14%の下落)しています。中国は世界の金属需要の約40%を占めていますが、米国との貿易摩擦懸念の高まりによる投資家のリスク回避の動きを受けて銅が売られました。しかし、直近の価格下落は、チリの供給混乱が当初懸念されたほど深刻ではなく、生産量がやや回復していることが一因となっています。米国と中国が貿易問題をめぐって対決姿勢を強めた場合、銅価格はこの先も弱含む可能性があります。米ドルの上昇と中国の経済指標の悪化も引き続き銅価格の足かせとなる恐れがあります。

注意すべきは、コモディティ価格の下落が引き起こす投資の減退⇒将来の供給不足⇒価格急反発などの混乱

コモディティ価格の下落は、長期的には、コモディティ・セクターへの投資の減少要因となり、こうした影響は特に石油業界で顕著に現れます。2014年に原油価格が半値まで下落した後、石油業界は、投資家からの圧力とコスト抑制の必要性を受け、かつて業界を支えていた巨大プロジェクト(北極圏の探査からカナダのオイル・サンドに至るまで)への新規投資をほぼすべて断念しました。徹底したコスト削減と世界の気候変動に対する懸念の高まりを受け、石油業界は、効率性の向上、再生可能エネルギー、電気自動車、化石燃料保全への取り組みによってエネルギー消費量の削減が可能となるような石油・ガスの大型プロジェクトから手を引くという誤った判断を下すかもしれません。プロジェクトへの投資が手控えられた場合、供給不足からエネルギー価格が上昇し、世界経済に混乱を引き起こすことになりかねません。

 まとめ

米国の利上げは2つのタイプあり

米国の利上げ局面は常に対応が難しいものですが、一般的に@景気拡大局面中盤での調整(金利の正常化)と、A景気拡大局面終盤でのインフレ抑制のための利上げ―という2つのタイプがあります。@の金利水準の調整は、金融市場の一時的な混乱を伴うものの、一般的に影響は軽微です。基本的に、現在の米国の利上げは、マネーサプライの過剰な伸びと景気の過熱を未然に防ぎ、景気拡大をさらに数年引き延ばすために行われています。だとすれば、株式市場と不動産市場が景気拡大局面の最終的なピークに達する時期は、現在の利上げ局面が終了してから数年後になる可能性があります。米国をはじめ、大半の先進国は景気拡大局面の中盤にあると私は考えています。

Aの利上げは、マネーサプライとクレジットの過剰な伸び、景気の過熱およびインフレ高進に対処するものであり、ほぼ確実に景気拡大局面終了の予兆となり、景気後退につながります。そのため、このタイプの利上げは@の金利水準の調整とは根本的に異なり、株式と不動産市場における弱気相場、景気減速または景気後退、さらには失業率の上昇とインフレ率の低下という厳しい局面に入る要因となります。

現在の利上げはサイクル中盤での調整に過ぎず、景気拡大局面は今後も続く見込み

足元の米国の利上げは、1994〜1995年および2004〜2005年の利上げと同様、@のタイプであり、Aとは性質が大きく異なります。しかしながら、現在の利上げ局面による影響が長期的に軽微であっても、短期的には世界の金融市場は、さらなる不確実要因による影響を受けることになります。具体的には、トランプ大統領の貿易戦争、米ドルの上昇、ブレグジット、ユーロ圏でくすぶり続ける金融および政治問題などが挙げられます。それでも、いずれの要因も、世界的な景気拡大の基盤を揺るがすことにはならないと考えています。

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