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2017年10月2日

 概況
  • 雇用の増加、緩やかな実質GDP成長率の伸び、株価や不動産価格の上昇に反映されている通り、米国のビジネス・サイクルの拡大は続いています。インフレ率が目標を下回っていることを踏まえれば、今回のビジネス・サイクルは過去最長の拡大期間となることが大いに見込まれます。

  • このメイン・シナリオに対する主なリスク・シナリオは、米国連邦準備制度理事会(FED)が、利上げではなく、民間部門の貸出の伸びを抑えることによってクレジットを急速に引き締めることです。既に民間部門の貸出の伸びは年率3〜4%と、低水準になっています。FEDがバランスシートの縮小を始め、2018年末にはそれが月500億米ドルのペースで行われることとなれば、それと同額の米国債とエージェンシー発行住宅ローン担保証券(MBS)を吸収しなければならないとの課題に債券市場は直面するでしょう。

  • ユーロ圏の経済活動は、遂に潜在成長率に近いペースで拡大を始めました。これは主に、欧州中央銀行(ECB)が2015年3月に資産購入プログラムを開始し、それに伴ってユーロ圏のマネーサプライ(M3)が伸びたためです。景気の勢いを維持するためには、民間銀行が現在よりも速いペースで貸出を増やす必要があり、さもなければ、ECBが資産購入額を減らした時に貸出の伸びがかなり落ち込む可能性があります。

  • ユーロ圏のインフレ率は、名目総需要の低調な伸びを反映して目標以下の水準にとどまっています。最近のユーロ高を受け、インフレは2018年も殆どの期間で目標以下の水準にとどまると予想されます。

  • ドイツでは9月に行われた総選挙の結果を受けて、メルケル首相率いる与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が、自由民主党(FDP)と緑の党との連立工作を進めています。次なる欧州の大きな政治イベントは、2018年のイタリア総選挙です。

  • 英国では、ポンド安がインフレを上昇させ、実質賃金を押し下げた結果、景気が減速しています。さらに、投資や資本流入にも減少がみられますが、輸出受注は増加傾向にあります。

  • 輸入インフレに加え、英国内のマネーサプライと貸出の伸び加速により国内発のインフレも高まるリスクがあります。こうした理由により、中央銀行のイングランド銀行(BOE)が11月に利上げに踏み切る可能性は高いと言えます。さらに、英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)交渉をめぐる不透明さが払拭されるまでは、成長率は1.5%前後にとどまると見込まれます。

  • 日本の景気は2017年はわずかに改善していますが、2013年4月以降、日本銀行が大規模な量的緩和政策(QE)を行っているにも関わらず、インフレ率は依然として目標の2%に届いていません。

  • 北朝鮮への対応、および教育・少子化への対策を強化すべく、安倍は衆議院を解散し、10月22日の総選挙実施を選択しました。強いリーダーシップを見せてきた安倍首相ですが、高い人気を誇る小池百合子東京都知事が対立政党を立ち上げたことから、今回の選挙にはリスクが伴います。

  • 共産党大会を控えた中国は、経済を軌道上に維持するためにクレジットの緩和と引き締めを交互に続けています。しかし、党大会で習近平氏が国家主席に再任された後、国有企業の改革や金融政策に関して大きな変化は見られないでしょう。

  • 対外面では、中国当局は資本流出を抑制し、資本流入を促すよう試みており、ここ数カ月の人民元の安定につながっています。

  • 主要先進国の景気が改善し、一部の新興国の経済が好転する中、世界の貿易も緩やかに回復しており、引いては、一部のコモディティ価格の改善にもつながっていますが、コモディティの全面高となるほどではありません。経済制裁に伴う貿易の自粛や、中国における生産能力の削減といったセクター独自の施策に反応している一部のコモディティを除くと、2017〜18年にコモディティ価格が上昇する可能性は明らかに限定的だと見ています。

 米国

就任から約3四半期が経過したトランプ大統領の経済政策やその他の改革は期待外れの状況となっています。移民に関する大統領令は裁判所によって無効となり、医療保険制度改革(オバマケア)法の見直しは、連邦議会の承認を得られず、とん挫しました。トランプ大統領は今度は減税案を提案しましたが、その決定権は連邦議会にあります。議会上院は10年間で1.5兆米ドルにおよぶ所得税・法人税減税案を示しましたが、まず下院の同意を取り付けなくてはならないうえ、数多くの手続きやその他かなりの難題を克服しなければなりません。トランプ政権のインフラ支出計画(原案では今後10年間で1兆米ドル、そのうち連邦政府が4分の1、民間が4分の3を負担)は依然として計画中の段階です。これまでにトランプ大統領が達成したことと言えば、大統領令によるキーストーンXLパイプラインとダコタ・アクセス・パイプラインの建設許可、ゴーサッチ最高裁判事の任命、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの脱退決定、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉開始と、いくつかの石炭火力発電所の閉鎖差し止めくらいのものです。こうした挫折にもかかわらず、熱心な支持者からのトランプ大統領支持は続いています。

一方で、S&P500指数は2016年11月初旬から2017年9月にかけて20%近く上昇しました。ただし、トランプ大統領の就任当初こそ彼の公約実現への期待が多少貢献したとしても、今回の株価上昇の多くは新政権とそれほどの関係はなく、真の原動力は景気サイクルが徐々に上向いたためだと私は考えています。これは、債券や株式、不動産といった資産価格の全般的な動きが景気サイクルの動きから影響を受けるという歴史的経験に沿ったものです。

トランプ大統領の就任当初、消費者や企業の信頼感指数、中小企業の雇用や投資、購買担当者景況指数(PMI)といった「ソフト」指標(聞き取り等に基づいた経済指標)は急上昇しましたが、その多くは3月に頭打ちとなった後、かなり低下しています。同時期の企業の売上高や利益の伸び、鉱工業生産、実質GDP成長率といった「ハード」指標(実体経済活動を集計した経済指標)は、選挙キャンペーン中のトランプ氏の公約である実質GDPの3.5〜4.0%成長に遠く及ばず、明らかに精彩を欠いています。

トランプ政権にとっては残念なことに、おそらくソフト指標のハード指標への接近(すなわち、悪化)が進んでいるようです。需要と供給の供給側から見ると、米国の潜在GDPは労働力人口の伸び(教育水準の向上を含む)に生産性の伸びを加えた水準並みの成長率となるはずです。しかし、米国の労働省によれば、今後の米国の労働力人口の伸びは年率+0.5%に過ぎず、将来の生産性向上はかなり難しくなると見込まれています。過去20年間の生産性の平均的な伸びは年率+2.0%ですが、過去5年間では同+0.7%にとどまります。生産性の伸びを2倍の年率+1.5%と仮定しても、実質GDP成長率は年率+2.0%にしか届かない計算です。

こうした状況の中で、FEDは段階的な政策金利の(引締めではなく)正常化を続け、9月20日には、6月に発表された計画に基づいてバランスシートの縮小に着手すると発表しました。連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の金利予測を示す「ドット・チャート」は、今年12月に更なる利上げが行われるうえ、2018年には0.25%の利上げが3回行われ、2018年末の政策金利が2.0〜2.25%になることを示唆しました。

FEDのバランスシート縮小計画は、保有している米国債と住宅ローン担保証券(MBS)を売却することはせず、現在は新たな債券に再投資している満期時の償還金を、一部について再投資を見送り、徐々に再投資しない金額を増やしていくというものです。再投資しない償還金額は、当初(おそらく今年10月〜12月)は月額100億米ドルでスタートしますが、2018年は、四半期毎に100億米ドルずつ増額され、2018年10-12月期には同500億米ドルとなっている予定です。これにより、これまでFEDが購入していた米国債とMBSの一部を民間投資家が代わりに引き受ける必要があり、それに伴って、米国債とMBSの入札形式での新規発行も増えると想定されます。そのことについて、イエレンFED議長は6月14日のFOMC後の記者会見で、FEDが利上げを続ける「背後で」起きること(すなわち、市場に大した影響は及ぼさない)と楽観的に述べていましたが、おそらく見当違いである可能性が高いでしょう。月額500億米ドルもの債券の供給増は、長期金利を上昇させ、金融環境を引き締め、銀行貸出やマネーサプライの伸びを抑えてしまうリスクがあります。FEDは注意深く事を進める必要があるはずです。

過去1年で、米国の銀行貸出の伸びは年率+9.0%から9月時点の同+3.3%にまで鈍化しており、同期間に米国のマネーサプライの指標であるM2の伸びは年率+7.0%から同+5.2%へ低下しました。これらは危険なほどの低水準というわけではありませんが、その低下傾向は不安材料です。9月21日に公表された資金循環統計によると、非金融企業部門の借り入れは2017年上半期に+5.7%増えたものの、家計の借り入れの増加は同+3.6%にとどまりました。こうしたデータは、低インフレが続いていることは改めて確認するものの、今後数カ月間に景気が再び加速することを約束するものではありません。

インフレ率は、2017年を通じて、FEDの目標とする水準を下回って推移しています。FED議長や理事、地区連銀総裁は、目標を下回るインフレが一回限りの携帯電話通話料引き下げなど、例外的な出来事によるものであり、2%の目標に対する下振れは「一時的」な現象だと主張していますが、物価の低迷が9カ月も続いていることを考慮すると、そうしたFEDの主張は信頼を失い始めていると言えるでしょう。注目されるのは、今年の物価の下振れの影響が前年同月比ベースで抜け落ち始める来年の春です。今年8月の食料品とエネルギーを除く(コア)消費者物価指数(CPI)は前年同月比で+1.7%上昇しましたが、7月のコア個人消費支出(PCE)デフレーターは同+1.4%にとどまりました。私は、その根本的な問題をマネーサプライと貸し出しの伸び鈍化だと見ています。しかし、もし来年にコア・インフレが上向き始めるようであれば、この程度の物価の弱含みが景気に害を及ぼすことはない見込みです。

私は、米国の実質GDP成長率が、2017年には2016年よりもわずかに改善して+2.1%、2018年には+2.2%になると予想しています。消費者物価指数(CPI)の上昇率は2017年平均で+1.9%を見込んでいます。

 ユーロ圏

9月24日に行われたドイツ連邦議会選挙の結果、メルケル氏が首相に再任されました。これにより、欧州の政治カレンダーは来年のイタリア総選挙まで小休止となります。ドイツの総選挙では、極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて議席を獲得しましたが、欧州全体を見渡すと、ポピュリストがユーロ圏、あるいは欧州連合(EU)を崩壊させようとする圧力は抑えられています。ただし、イタリアでは、「五つ星運動」が約25%の高い支持率を得ており、中道右派と中道左派の政党による既存の正統派政治勢力を脅かす可能性があることは認識しておかなくてはなりません。また、ドイツの総選挙を機に、フランスのマクロン大統領はEU強化に向けた一連の提案を行いました。メルケル首相もその提案の一部に賛同する可能性はあるものの、それは自由民主党(FDP)、緑の党との長期に亘る連立交渉を完了してからのこととなるでしょう。それら2政党の支持は、メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が実効的な連立与党政権を築く上で必要不可欠だからです。

欧州の経済状況は、トランプ氏が大統領に当選した後の米国と同様に、センチメント指標が実体経済指標に先行する形ではありますが、徐々に改善してきています。2009年〜14年に、ユーロ圏もしくはECBの金融政策が欧州大陸の経済活動の回復に完全に失敗したことを思い起こすと、同地域の景気がここまで回復することがどれほど難しかったかがよくわかるはずです。2009〜14年は、ユーロ圏のマネー・サプライの指標であるM3の伸びの平均が年率+1.3%に落ち込み、その結果、実質GDP成長率の平均はわずか+0.2%に低迷し、インフレ率は+1.5%と目標を下回る水準で、2度にわたるデフレも経験しました。銀行の増資やリストラの機会を逃し、2011〜12年には欧州債務危機に直面し、2012年にECBが長期資金供給オペレーション(LTRO)を実施しても銀行貸出の伸びは全く回復しませんでした。ECBがようやく量的緩和政策の下で資産購入に踏み切ったのは2015年3月になってからのことです。その殆どが民間銀行とのアセット・スワップを基本とするECBの資産購入プログラムは、銀行以外から資産を購入する米国や英国の同様の策と比べると、ぜい弱な内容ではありましたが、それでも政策導入1年後、ユーロ圏経済は緩やかに回復を始めました。データによれば、2015年1月以降、ユーロ圏のM3の伸びは平均で年率+4.8%に加速し、2017年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+2.3%にまで回復しています。

とはいえ、ユーロ圏内の状況は国によって異なります。実質GDP成長率(前年同期比)は、ドイツでは2014年以降、平均で+1.8%、2017年4-6月期には同+2.1%まで加速しました。一方、フランスの2014年以降の平均はわずか+1.2%でしたが、2017年4-6月期は+1.8%と回復の兆しを見せました。他方でイタリアは、2017年第4-6月期の実質GDP成長率が+1.5%と、2014年以降の平均+0.7%という悲惨な数値に比べれば大幅に改善してはいるものの、長期に及ぶ経済成長低迷の直接的帰結でもある銀行破綻の脅威に引き続き苦しんでいます。その他の国では、スペインは、2008年〜10年、2011年〜13年と、立て続けの景気後退から急回復し、2014年以降の平均は+2.7%となりました。同様に、2008年〜10年に金融危機と深刻な景気後退を経験したアイルランドは、2014年以降の平均が+11.9%と急回復しています。ただし、この数値はアイルランドの特殊な税制度の影響を反映したものです。低い税率を求めて企業が同国に本社を移して国籍を変更したり(「インバージョン」)、欧州地域の取引を同国に置いた地域本社に集中したりすることで、アイルランドには、その経済規模に比べて巨額の対内直接海外投資(FDI)が流入しました。それが「投資」項目として処理されて同国のGDPが急増し、成長率が急上昇したわけです。

金融政策面では、ECBが現行の量的緩和策の下、月額600億ユーロの債券購入を続けていますが、2018年より購入規模を縮小すると見込まれます。しかし、コンセンサスとなっているこのシナリオには2つの問題が存在します。

まず、ユーロ圏の景気は回復基調にあるかもしれませんが、同地域において、実質GDP成長率、インフレ率ともに2%を達成するには、(年間1%程度の貨幣の所得速度低下を考慮すると)M3が5%以上の伸びを持続する必要があり、それには足元は明らかに心もとない状況です。8月の家計や民間部門への銀行貸出は前年比2.7%増にとどまり、バランスシートの負債サイドにおける預金の5%の伸びを下支えするに十分とは言えません。つまり、量的緩和策の下で行われている債券購入規模を縮小することは、M3の伸びに打撃を与えるという新たな問題を生み出すことになるのです。

2つ目の問題は、ユーロ圏のインフレ率が、ECBが目標とする「2%に限りなく近い2%未満」の水準を大きく下回っていることです。8月の総合CPIは前年同月比+1.5%にとどまり、コアCPIは更に低い+1.2%となりました。このことは、ECBが債券購入規模を縮小し、M3の伸びが減速すれば、インフレ率が目標をさらに大きく下回る水準へと低下する可能性があることを意味しています。

ユーロ圏の2017年の実質GDP成長率は+2.2%、CPIは+1.7%と予想していますが、不十分なM3の伸びが続くと予想されることから、物価上昇率は来年に向け、目標の2%を下回る見込みです。

 英国

2017年の英国景気は、2016年、特に、実質GDP成長率が平均で年率+2.4%だった2013年1-3月期から国民投票が行われた2016年6月までと比較すると減速傾向にあります。事実、英国の経済成長率は米国並みの成長水準である2.0〜2.5%から、欧州並みの成長水準である1.5%付近まで低下しました。ただし、個人消費や企業の支出が依然として堅調に推移していることは注目に値します。例えば、2017年4-6月期の実質GDP成長率は前期比で+0.3%にとどまっているものの、前年比では+1.4%となっています。さらに、8月の小売売上高の前年同月比伸び率は、名目では+5.0%に達し、実質でも+2.2%となっています。

英国の景気が、1年前に示されたエコノミストの弱気なコンセンサス予想よりも持ち応えられている状況には2つの理由があります。まず、金融政策が非常に景気刺激的です。次に、英ポンドの下落により、製造業の輸出が予想よりも活発となったためです。

英国の金融政策は、2016年6月に英国の欧州連合(EU)からの離脱(「ブレグジット」)を問う国民投票が行われた時点で、既にかなり緩和的な状態でした。商業銀行の貸し出しと英国のマネーサプライの指標であるM4xの伸び率は、2016年3月の4〜5%から、2017年9月には6〜8%と、過去3〜4年を大きく上回る伸び率に達しました。そして、国民投票でブレグジットが決定した後、BOEの金融政策委員会(MPC)は、政策金利を0.5%から0.25%に引き下げ、600億ポンドの追加量的緩和を実施し、商業銀行に実業界への貸し出しを促す貸出促進策(ターム・ファンディング・スキーム)を設定することで、更なる景気刺激を図りました。これにより、M4xの伸び率は、2016年1-3月期平均の前年比+4.5%から、2016年7月〜2017年6月には平均で+7.0%へと、かなりの加速が見られました。同様に、消費者信用や金融セクターを中心とする銀行貸出も、同期間に2桁の伸びを見せました。こうしたマネーサプライやクレジットの急速な伸びは2016年半ば以降の支出の堅調な拡大の主要因となりました。

活発な経済活動の次なる要因は英ポンド安です。これは英国の製造業にとって1990年代半ば以来の輸出受注の伸びにつながりました。英産業連盟(CBI)の月次聞き取り調査では、国内受注と輸出受注の双方が1995年以来の好数値となりました。また、製造業の購買担当者指数(PMI)は国民投票前の6カ月平均である51.2から、2017年1-9月の平均では55.2に上昇しました。実際の輸出はまだそれほど急速な伸びを見せてはいませんが、これは典型的な「Jカーブ」効果(通貨高に対し、対外収支が当初は悪化し、2年ほど遅れて改善する反応)によるものです。

英国経済のもう一つのプラス面は、超低失業率、堅調な雇用増加、高い労働参加率などに見られるように、労働市場の好調が続いていることです。失業率は6-8月期平均で4.3%と、1年前の4.9%から低下し、1975年以来の最低水準となりました。同様に、雇用者数は1年間で37万9千人増加して3,214万人に達し、労働参加率(16〜64歳の人口中、職に就いている人の割合)は75.3%と、比較可能な1971年以降で最高水準となりました。

一方、経済指標で示される英国経済のマイナス面はといえば、平均週刊賃金は6-8月期に(ボーナス含む、ボーナス除くともに)2.1%増えましたが、インフレ率の上昇により、実質ベースの賃金は0.4%減少したことです。

インフレ率の上昇に対し、BOEは、(英ポンド安による)輸入物価上昇が主導するインフレは自らがコントロールできるものではないとみなし、昨年8月以降は金融政策を維持してきました。しかし、国内支出増加の兆候が積み重なったことから、最近、態度を変えました。まず、 6月27日にBOEは「カウンターシクリカル資本バッファー」を0.5%引き上げ、英国の民間銀行の最低自己資本要件を合計で114億ポンド増やすと決定しました。次に、9月のMPCの議事要旨で、委員の多くが「今後数カ月間に金融緩和を一部引き上げることが適正になる」と感じていることを明らかにしました。これは、明らかに利上げが迫っているとのメッセージです。

このアナウンスは、BOEがある種のジレンマに陥っていると見られる状況を背景に発せられています。まず一方では、英国のCPI上昇率が、被服や石油価格の上昇を背景に7月の前年同月比+2.6%から8月には同+2.9%と、BOEのインフレ目標(2%を中心に1〜3%のレンジ内)の上限を超過しかかっています。もし、インフレ率が3%を超えた場合、BOE総裁はその理由と今後の方策について英国財務大臣に書面で説明しなければなりません。そうなれば、明らかにBOEがもっと早くに利上げを行い、マネーサプライとクレジットの伸びを抑えるべきであったということになります。他方で、ブレグジットをめぐる交渉の期間中は、BOEは投資や雇用を下支えるために政策金利を低位に保ちたいことでしょう。8月のMPC議事要旨では、おそらくは企業がブレグジットを懸念した影響から、4-6月期の企業の投資が横ばいで推移したことが示されていました。そして、カーニー総裁はわざわざ、企業が英国とEUの交渉から影響を受けて設備投資の決定を遅らせるようならば、それを防ぐためにBOEにできることは殆どなく、むしろそれは英国政府の責任範囲だと説明していました。

2017年の英国経済については、私は実質GDP成長率は+1.5%,CPI上昇率は+2.7%と予想しています。

 日本

日本の2017年4-6月期の実質GDP成長率は前期比+0.6%、前年同期比では+1.4%(1-3月期は前期比+0.3%、前年同期比+1.5%)となりました。この回復に最も貢献したのは、前期比で0.8%成長した個人消費と、同+6.0%と驚くべき伸びとなった公共投資でした。設備投資は前年同期比2.8%増加し、輸出は同6.8%急増しました。実質GDPは6四半期連続で増加しており、これは10年以上ぶりのことです。しかし、安倍首相の景気回復策である「3本の矢」(金融緩和、財政出動、構造改革から成ります)、とりわけ、第1の矢である金融緩和が既に日銀のバランスシートがGDPの92%に達するほど拡大していることを踏まえると、その結果はもっと早期に現れ、名目GDPに大きな影響を及ぼしていてよかったはずです。このことは、政府・日銀の施策の効果がなぜこれほど限られているのかという基本的な疑問をかき立てます。

その答えは、日本の量的緩和策(もしくは量的・質的金融緩和)が2つの形で希薄化しがちだからです。第1に、日銀は量的緩和策の一環として巨額の有価証券を購入していますが、ECBと同じように、その購入を民間銀行から直接行うことで効果を削いでいます。日銀が有価証券を購入する見返りとして民間銀行は新たに資金を手にしますが、彼らがリスク回避的あるいは資本が十分でないなどの理由で貸し出しを増やそうとしなければ、企業部門や家計部門の新たな預金やマネーサプライの創出にはつながりません。したがって、資産購入(量的緩和)策が景気浮揚に及ぼす効果は限られてしまうのです。

第2の答えは、日銀の月次購入額の15〜20%が手形や政府短期証券などの期限の短い資産が占めていることです。その殆どを民間銀行が保有するこうした短期証券は、満期が到来する度にロールオーバーされます。したがって、こうしたオペレーションは、結局は日銀と民間銀行との間でアセット・スワップのロールオーバーを続けていることと大差ありません。それゆえ、日銀が2013年4月以降、4年半にわたって量的緩和(あるいは量的・質的緩和)を続けても、日本のマネーサプライの指標であるM2は平均で年率+3.6%しか伸びず、実質GDP成長率を+1.5〜2.0%、インフレ率を+2%で持続させるために必要と考えられる年率5〜6%の伸びに届かないのです。

景気がそれほど力強く回復しないことに不満を抱く安倍政権は、所得の向上に取り組み、企業に賃上げ受け入れを迫ることで長期にわたるデフレ圧力から抜け出そうとしています。しかし、これについても、企業の反応はそれほど芳しいものではありません。7月の名目現金給与総額は、低調な企業収益を反映したボーナス支払いの減少により前年比-0.3%と、想定外の1年以上ぶりの減少となりました。今後についても、2017年の現金給与総額の増加に関するコンセンサス予想はわずか+0.5%で、2016年の+0.6%にも届きません。言い換えれば、短期的な解決策は見当たらないのです。

こうした事態は、労働市場のひっ迫が長期化している中で起きているのが興味深いところです。8月の失業率が2.8%と超低水準、同有効求人倍率が1.52倍と1970年代初期以来の最高水準にあることを踏まえると、賃金を押し上げようとするだけではインフレに結びつかないことは明白です。日本が現在経験している、労働市場のひっ迫にもかかわらず賃金上昇が低水準にとどまっている現状は、(失業率とインフレ率の関係を説明する)フィリップス曲線が信頼できるインフレ理論でないことの強力な証拠だと言えます。この「関係」とは、実際には過去の特定の状況下で機能するようにみえる経験的な観察に過ぎません。日本のみならず、米国やドイツ、その他いかなる国においても、現在に当てはまるとは限らないのです。なぜなら、急速な賃金上昇とインフレ上昇の双方の根本的な原動力(すなわち、マネーサプライの急速な伸び)が現在は存在しないからです。

結果として、日本の消費者物価(CPI)上昇率は依然として日銀の目標である+2%を下回っています。8月の総合CPI上昇率は前年同月比で+0.7%、生鮮食品を除いたコアCPI上昇率も同+0.7%、コアCPIからさらにエネルギーを除いたコアコアCPIは同+0.2%でした。

私は、日本の2017年の実質GDP成長率を+1.5%、同総合CPI上昇率は(国内のマネーサプライの伸びではなく)若干の円安に支えられて+0.4%になると予想しています。

 中国とアジアの新興国

第19回中国共産党大会を控えて、政治的な最優先事項は全てを安定的に保ち、とりわけ、景気の勢いを維持することです。党大会は、習近平国家主席が権力を自らに集中させ、国務院メンバーを入れ替え、彼に忠誠を誓う人物を高い地位に登用するための重要なチャンスだと一般にみなされています。安定を維持するには、時には緩和、時には引き締めと、一連の方策を用いて、短期的な経済問題が本格的な危機に発展することを防ぐ必要があります。だからこそ、当局は時々アクセルをそっと踏んだり(例えば、9月末に銀行の預金準備率を引き下げるなど)、別の機会にはその足をブレーキに移したり(例えば、不動産市況を沈静化させるべく、地方政府が今年前半に不動産の購入制限を課し、住宅ローンの貸出条件を引き締めるなど)しているのです。

一歩下がって全体を見渡し、より長期的な情勢を考えてみると、中国では2014〜16年に国内のクレジットが年間+21%と、同国のマネーサプライの指標であるM2、シャドーバンキング貸出や社債の発行、その他の銀行以外の貸し出しを含む「社会融資総量」などよりもはるか急速に膨れ上がりました。しかし、同国政府は過去数カ月間でこれを鈍化させることに成功し、中国の債務の対GDP比は突然に上昇が止みました。だからと言って、必ずしも中国が積極的にレバレッジの縮小を図っているというわけではないものの、少なくとも2009年に始まった債務の急拡大が決定的に鈍化したとは言えます。

今振り返ってみると、この中国のクレジットの拡大──少なくともその一部──は、実際は2010〜14年に同国企業が海外から借りた1.2兆米ドル(国際決済銀行調べ)もの資金の借り換えにより発生したもののようです。この中国企業による海外からの借り入れは、中国当局が安定的な人民元高政策を遂行するなか、各企業が米ドルや他の低金利通貨で調達した資金を人民元に換えて高成長の中国での投資に充てることで、当該投資と人民元高の双方により2桁の高リターンを享受できるという、要するに古典的なキャリー・トレードの機会が存在していたということです。しかし、2014〜15年になって人民元の上昇が止まり、下落に転じると、もはや米ドルや香港ドル、日本円を調達する意味がなくなり、6,000億米ドルもの外貨借り入れが返済されたのでした。ただし、既に開始された投資については、それを維持するための資金が必要だったことから、中国国内で、その多くは、各省や地方政府を経由した銀行貸出のほか、ノンバンクなどから調達されたようです。

今後は、人民元が一時的により大きく変動することを許容されるような兆候があります。自国通貨について一方向の相場観を提供してしまうことの愚かさを学んだであろう中国当局は、2年に及ぶ市場自由化凍結期間を経て、@資本逃避を取り締まる一方、A人民元の価値を維持して外国人の資金流入を促そうとしています。このことは、中国企業が将来的にレバレッジを高めることのインセンティブを更に低めることになるでしょう。加えて、最近のデータに基づくと、M2や国内貸出、社会的融資総量の全般的な伸びは、いずれも10〜12%の範囲に収まっています。この傾向が維持されるかどうかは、今後2年ほどの中国経済の安定にとってかなり重要な意味を持ちます。というのも、10〜12%のマネーサプライの伸びは、6〜7%の実質GDP成長率、(最近10年間のトレンドに基づくと)3〜4%の貨幣の流通速度の低下、+2%未満のインフレ率などと整合的だからです。

中国の実質GDP成長率は2017年1-3月期、4-6月期ともに前年同期比+6.9%と、指導部が定めた目標に沿った水準となりました。しかし、重工業セクターの国有企業では多くの過剰生産能力の削減が進み、現在は鉄鋼や石炭、電力など、いくつかの基礎産業で一時的な回復が見られます。こうした状況を反映して、中国の現首相の名にちなみ、容易に利用できるデータに基づいた「李克強指数」は、2016年後半以降、急上昇しています。

対外面では、中国の輸出は、1年前の減少から、6-8月期には前年同期比+8%の伸びにまで回復してきています。輸入は更に激しく、3月に+25%の伸びを示した後、6-8月期は+14%まで減速しています。中国の輸出入がともに回復していることを踏まえると、長く停滞が続いた世界貿易も、遂に拡大に転じ始めた可能性があります。

中国が群を抜いて巨大な新興国であり、世界最大のコモディティ購入国であることから、その経済成長は、先進国か新興国かを問わず、多くのコモディティ輸出国に多大な影響を及ぼします。もし中国が今後1〜2年にわたって国内経済の安定を維持できるようであれば、コモディティ輸出国の景気は相当改善するでしょう。しかし、先進国で緩やかな景気回復が続く見込みであることを踏まえると、中国単独で全てのコモディティ産出国を支えることは不可能かもしれません。

2017年の中国経済については、私は+6.8%の実質GDP成長と+1.3%のCPI上昇を予想しています。

中国を含めた地域的なサプライ・チェーンのネットワークに組み込まれている東アジアや東南アジアの中小工業国では、その輸出の見通しは、中国の景気回復よりも、米国や欧州におけるビジネス・サイクルの好転が続くかどうか次第と言えます。なぜなら、中国の輸入は主に(東・東南アジアでは生産されていない)原材料や資本財で占められており、自国で使用するために輸入する工業製品もそれほど多くはないからです。一方で、米欧はアジアのサプライ・チェーンによって生産された工業製品の主要な輸入者です。

2017年の実質成長率は、韓国や台湾、香港が2〜3%程度にとどまると予想される一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)経済は4〜5%成長すると予想されます。こうした実質GDP成長率は、概して過去のトレンドを下回っているものの、輸出主導のアジア諸国の株式市場は、世界貿易の伸びが回復し始めるとの兆候を反映して、今年これまでに大幅に上昇しています。

 コモディティ

私がコモディティ価格に弱気の見通しを維持してきた理由でもある3つのファンダメンタルズの要素が、遂に変化し始めた可能性があります。とりわけ、米国の景気回復の持続、欧州の経済活動の段階的な改善、世界貿易好転の兆候は、少なくともコモディティ価格の安定には寄与する可能性があります。(私のメインシナリオである)世界的な景気拡大は今後数四半期のコモディティ需要を増大させ、世界貿易の好転に反映され、コモディティ価格の上昇につながります。もしこうした見方が正しくとも、それでも米国やユーロ圏で金融政策の正常化が行われている段階では、コモディティ価格の上昇は限定的なものになるでしょう。

こうしたコモディティをめぐる環境改善には3点の主要なリスクがあります。第1はFEDが金融政策を引き締め過ぎてしまう可能性です。これは利上げによるよりは、バランスシートの縮小が予期しない米国の経済成長鈍化(あるいは景気後退)につながるケースが考えられます。第2として、ECBの資産購入減額により、銀行貸出やマネーサプライの伸びが再び鈍化し、ユーロ圏の景気回復が揺らぐという無視しえないリスクがあります。第3は、中国の信用拡大抑制策が逆の結果を招く可能性です。

しかし、現在のところ、こうしたリスクは大きなものではないと私はみなしています。実際、ここ数週間の原油や金属価格の緩やかな回復と、来たる世界貿易の回復は、コモディティ価格の弱気段階が遂に終わりを迎えたことを示していると私は考えています。

 まとめ

米国の成長持続にユーロ圏の回復や世界貿易の再加速が加わり、世界のビジネス・サイクルの好転が続いています。先進国経済の拡大は東・東南アジアや中南米における輸出主導の新興工業国のほか、コモディティ生産国にプラスの影響を及ぼしています。

現在の景気拡大は、おそらく、米国の歴史上最長のものになるだろうと予想しています。それはつまり、当時のグリーンスパンFED議長の下、1991年3月の景気の谷から2001年3月のピークまで続いた(全米経済研究所(NBER)の定義による)120カ月の最長の景気拡大期を上回ることを意味します。この見通しに対する脅威があるとすれば、それは中央銀行が現在もしくは今後の金融政策の正常化段階において引き締め過ぎという過ちを犯す可能性だけです。もし過剰な引き締めが行われれば、2018年から19年にかけて景気が減速し、多くの主要国でインフレが目標値を下回る状態が長期化するリスクがあります。これは私のメイン・シナリオではありませんが、投資家はそうしたリスクに留意する必要はあるでしょう。

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